"鬼"上司と仮想現実の恋
食事が運ばれ、和やかな雰囲気で会食が始まった。

それぞれの家族をそれぞれの父が紹介する。

その後、談笑と共に食事が進む。

「暁里さん、着物姿だからかな?
今日はいつにも増して、綺麗だね〜」

社長が褒めてくださる。

「いえいえ、私なんて…」

私が謙遜すると、

「悠貴もそう思うだろ?」

と社長は悠貴さんに振る。

「ああ。
暁里、すっごく綺麗だ。」

そんな事を家族の前で言われて私は恥ずかしさの極致に達する。

「ふふっ
暁里さん、お顔が真っ赤よ。
ほんとにかわいらしいお嬢さんね。」

悠貴さんのお母さんが微笑む。

ここで、旭が口を挟む。

「お兄さん、この場でそんな事を言える
なんて、すごいですね!」

「ん? なんで?」

悠貴さんが聞き返す。

「自分の家族と相手の家族の前ですよ。
普通は恥ずかしくて言えませんよ。
お姉ちゃん、今、お兄さんの事、かっこいい
って言える?」

旭がそんな事を言うから、私はもう顔を上げる事もできない。

「くくっ
暁里はそんな事、言わないよ。
そんな事を平気で言えるような女だったら、
好きになってないし。
こうやって、照れて真っ赤になってる暁里が
かわいいんだから。」

私はもう、何も言えない。

お願いだから、悠貴さん、これ以上、何も言わないで…



「………広瀬さんは、社長さんで
いらっしゃるんですよね?
いつも娘がお世話になっております。」

父が頭を下げる。

「いえいえ、お世話になってるのは、
こちらですよ。
悠貴のわがままで突然、職種転換をさせて
しまったのに、とても素晴らしい成績を
上げてくださって、喜んでるんですよ。」

社長が話している間、顔を上げると、向かいの席の悠貴さんと目が合った。

悠貴さんに優しく微笑まれて、胸がきゅんとなる。


・:*:・:・:・:*:・

しばらく、他愛もない話が続いた後、父が尋ねた。

「悠貴くんは、いずれお父さんの後を
継がれるんですよね?」

「それはまだ分かりません。
父はそう希望しておりますが、今後、その器か
どうか見極めてからになると思います。」

悠貴さんが答える。

「もし悠貴くんが将来、社長になるとして、
社長夫人というのは、大変なものなので
しょうか?」

「?
お父さん?」

父は何を言いたいのだろう?
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