艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
視線を葛城さんに戻せば、彼は「ん?」と首を傾げてフォークを引っ込める気配はない。
渋々、小さく口を開けた。
下唇に、冷たくて固いフォークの感触。
それから舌の上に、蕩けるような甘味と酸味が広がった。
にこ、と余裕を装って笑ってみせたのは意地だろうか。
けれど、きっと顔は赤かった。
彼の背後で、女性の何人かがトゲのある視線を向けてくる。
本当に結婚してしまうまで、私はどうやらああいった女性とも戦わねばいけないらしい。
「美味しいです」
「良かった。あそこの女の子が勧めてくれてね」
にっこりと邪気のない顔でそう言われ、ぐっと喉がつまりそうになった。
「……それ、葛城さんに食べて欲しかったのでは」
「ん? そう?」
彼もひとくち食べるのかと思ったら、また私に差し出して来る。
「俺は、君に喜んで欲しいからどれが美味しいか聞いただけ」