艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
資料の紙をめくる手が止まる。
横顔が少しこちらを向いて、私を見た瞬間にどきりとした。


「メリットは」

「はい」


一度言葉を溜め込んだから、余計に空気に緊張が走る。
彼の瞳が私から逸れ、宙を見ている表情が。


何か、言葉を探しているように見えた。
だから、歴とした理由があるのかと期待したのに。


「可愛い奥さんが手に入る」


にこっと笑われ、むかっとした。


「はぐらかさないでください」


言い返したが、彼は資料の束をクリアファイルに入れてそれをローテーブルに置くと、今度は真顔で私を見つめる。


「藍さんの方こそ、さっきから花月庵のことばかりに熱心だけど」

「え」


彼の上半身が僅かに私に近づこうと動いた。
それだけで私はびくっと肩を震わせ、肘掛けに体重をかけるように一定の距離を保とうとしてしまう。


わざとではない。
どうしても身体が警戒してしまうのだ。
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