艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
なんで?
と一度視線を手に落とす。それからもう一度彼を見たときには、ふわっと吐息がかかるくらいにすぐ目の前に彼の顔があった。
コーヒーの香りがする。
乾いた柔らかな唇が、一度だけ、ほんの一瞬、私の唇に触れた。
不意打ちの出来事に驚き過ぎて、息が止まってしまっていた。彼はまだ、鼻先が擦れるくらいの距離にいる。
「未来の夫に、キスくらいは許してくれる?」
掠れた声で囁かれ、私の唇に息がかかった。
許すも何も、今してしまったじゃないかと頭の中では思っていたけれど、瞬きでしか反応できない。
もっともそれは、彼にとってキスのうちには入らなくて、許しを請うたのはそれより先のものだったのかもしれない。