艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
扉を隔てて向こうに、葛城さんがいる。
心臓が、重い音を立てていた。
ファーストキスと唇を舐められた衝撃と、思い切り殴ってしまった申し訳なさで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
大体、相手は結婚しようとしているその人なのだ、キスくらいで狼狽えていてどうする、とも思う。
だけど、あくまで政略なのだしそんなに積極的に『そこ』は進めなくてもいいんじゃないのか。
考えているうちに、じっとりと汗をかいてくる。そのとき。
こんこん、とノックの音と。
「藍さん?」
と、少しも怒ってない落ち着いた声がした。
「手は? 痛めてない?」
言われて、まだてのひらが熱いことに気がつく。
だけど葛城さんの頬はもっと、痛いはず。
「……平気です」
「ならいいけど。そんな状態でひとりで帰すなんてできないから、落ち着いたら出ておいで」
あんな思い切り良く叩かれて、腹は立たなかったのだろうか。
葛城さんの声があまりに穏やかで、殴ってしまったことの罪悪感が次第に大きくなっていく。