艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「まあ……あともうちょっとかかるかな。それまで待ってて」
「何がですか」
「君のお父さんのお許しが出るまで」
「え」と、彼の言葉に瞬きをした。まるで、父とのことですでに何か対策をしているように聞こえたのだ。確かに、説得は任せてと以前言っていたが、そんなに上手くことが運ぶわけがない。一体何を、と聞き出そうとしたけれど、ひょいと私の視界いっぱいに飛び込んできた彼の微笑みに黙らされる。
「何も心配しなくていいよ」
腰が引き寄せられ、唇が重なる。
混じり合う吐息から、お酒とシナモンの香りがする。唾液が甘くて、また、何も考えられなくなる。
咄嗟に、彼の胸を押した。
「藍さん?」
一瞬何が怖くて躊躇ったのか、わからなかった。
「あ。くしゃみでそうになったの」
「ぶっ」
片手で口元を覆ってくしゃみを堪える仕草をすると、彼がおかしそうに噴き出した。
その、不意の笑顔の方がほっとする。
「藍さんといると、毎日楽しくていい」
「ムード壊してすみませんー。仕方ないじゃないですかくしゃみは我慢できません」
こんな風に言い合えることの方が、なぜかとても、ほっとするのだ。