艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
ふっ、とライトの色が落とされた。
レセプションパーティーの始まりだ。


「社長」と彼を呼ぶ声がした。


「じゃあ、藍さん。後で軽く、君のことを紹介するから」

「はい……えっ? いつ?」

「壇上から声をかけるよ。花月庵の名代として」


それだけ言い残すと、彼は数人のスーツの男性のところへ向かった。


呆然と、その背中を見る。


え、待って。聞いてない。
壇上に呼ばれるの?


花月庵の名代として!?


焦りと共に、今更ながらに自覚する。
単なる婚約者ではない、葛城さんの甘さにただ翻弄されていてはいけない。


花月庵の娘として、彼の婚約者としての役目を果たさなければいけないのだ。


胸の奥に刺さったトゲが、つぷりとまた、深くなる。
その痛みに、着物の合わせを手で抑えた。


最初から、それが前提の関係なのに。
今更痛みを感じる意味が、わからない。
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