艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「今日はその花月庵の名代として、ご息女の望月藍さんにもお越しいただいています」
彼の目が、優しく微笑んで私を見おろしている。壇上から手を差し伸べられ、私は震える足を一歩踏み出した。
何も聞いていない。だけど最初からわかっていたことだ。
彼が私と結婚するのは、花月庵の和菓子の技術が必要だから。彼が、それを自社の製品に利用するのは当たり前のことだ。
壇上までのステップを、着物の裾を少し持ち上げながら上がる。差し伸べられた手に、役目を果たすべく指輪が光る左手を乗せた。
私たちの結婚の大前提が、自分の目の前に突き出された。
今、これまでに一番、胸の痛みを訴えている。そのことが、何を意味しているのかようやく、理解した。
――君に好きになってもらえるよう努力するよ。
彼の努力は、着々と実を結んでいる。