艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
決定事項のごとく言い切られ、言い返す言葉が出てこない。
断定的なセリフは、私がその理不尽な縁談に応じるしかなくなる事情が裏にあるのだと印象付けた。


圧倒されながら、ごくりと唾液を飲み下す。
彼の言葉をかみ砕くに、花月庵には利益がないように思えても、私はその縁談に応えなければいけない理由がある、ということだ。そうしなければ、花月庵が危機に陥るということだろうか。
すう、と息を吸い込み、彼を下から睨んだ。


「父が腹を立てるわけですね」


詳細はわからないが、花月庵の何か弱味に付け込んで彼はうちと婚姻関係を結ぼうとしているということだ。


そんなもの必要ない、と今すぐここで突っぱねられるほどには私は花月庵の、特に経営に関わることには理解できていない。
私の知らない何かがあるに違いないから、迂闊な態度は取れなかった。


けれども素直に従うには腹立たしく、彼を睨んだのはせめてもの意思表示だった。そんなもの、彼には毛ほどもかゆくないかもしれないけれど。


気分を害するか、気が削がれるくらいの反応は見られるかと思ったのに、あてははずれる。葛城さんの恐ろしいほどに整った顔に浮かんだのは、とても優しい微笑だった。


「だから言ったでしょう。あなたのお父上は家族思いの良い人だと」



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