艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~


「藍! どこにいる!」


父の声が、さっきよりも近い。
すると、葛城さんがふっと溜息を落として言った。


「時間切れです。詳細はまた後日、書面でお知らせしますよ」

「書面?」


なんだろう。花月庵の経営状況か何かの資料? 


「ご実家ではなく、藍さんのマンションの方に」


私が就職と同時に独り立ちしていることも、ご存じらしい。


彼が私の背中を押して、柱の影から押し出す。
通路の先に、父が私を探してきょろきょろと周囲を見渡しているのが見えた。
彼は見つかる前に、私を父の元に返したいのだろう。


後日だなんてまどろっこしい。今すぐ事情を聞き出したいが、父が割って入れば余計にややこしいことになるのは目に見えていて、私は仕方なく、葛城さんを逃がすことにした。


「おとう……」


父を呼びながら、そちらへ歩き出そうとした直前。
急に肩を抱き寄せられ、上半身が傾いた。


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