艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「え……でも……」
信じないわけじゃないし、信じたいとも思う。
けれど私を欲しいと思う理由が見つからなかった。
驚いてそれ以上言葉が出ない私の手を、彼が取った。
絡め合った指先に、彼は視線を落とす。
「一番最初に藍さんを見かけたのは、いつだったかな」
手を握ったまま、彼はなかなか目を合わせてくれなくなった。
もう片方の手で、首の後ろを掻いてみたりとどことなく、落ち着きのないものになる。
「去年、の茶会の時なら覚えてます」
彼とぴたりと目が合ったときのことを思い出した。
あの時、ひどくじっと見つめられていた気は確かに、していたけれど。
「それよりも少し前だ。何度もお祖母さんの付き添いで茶会に出席してただろう?」
確かに、特に社会人になるまではよく祖母に連れ出された。
大きな野点の席だと、挨拶することもなくすれ違うだけの人も多い。
「ぴんと伸びた背筋が印象的で綺麗な人だと思ってた。和服だと少し大人びて見えるね」