艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
いつのまにか、彼の語り口調がとても優しく静かなものになっていて。
そんな穏やかな声で語られる、『彼から見た私』がとても綺麗な存在のように思えてしまう。


握られたままの手が、くすぐったい。
じわりと汗が滲み出しそうで、恥ずかしいのに離してくれない。


「なのに、今年の春の茶会で、お祖母さんの隣に君の姿が見えなかった。それが、転機だったかな」

「転機?」

「それまでは、たまに見かける可愛らしい女性、という意識くらいだったんだけどね。会えると思ったときに会えないとなると、無性に繋がりが欲しくなって、俺の方からお祖母さんに声をかけた。話が弾んで茶会の後まで話し込んでいて、今の花月庵の現状を知った。柳楽堂から支援の話と引き換えに藍さんに縁談が来ていることも」

「えっ!?」


またしても、私には全く知らされていなかった話だ。
だけど、合点がいく。パーティで葛城さんや兄が、まるで私を庇うように立っていた、あの時は随分過剰な反応だと少し不思議に思っただけだったが。


ちゃんと理由があったのだ。


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