艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
ふに、とこめかみ、耳の近くに柔らかいものがあたる。
唇だ、と気付いたのは、一瞬後だった。
「え……」
「じゃあまた。近いうちに」
低く甘い囁きを残して彼は私から離れ、父が居る方角とは反対の方へと歩いていく。
私は振り向いて、一階下のショッピングフロアへと階段を降りていく背中を呆然と見送る。片手を、耳にあてた。
柔らかかった。
さっきの、あの感触は。
「……ちゅー、された」
そう声に出した途端、かあっと頬が火照り出す。頬とはいえキスをされたなんて初めてのことだったのだ。