艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「秘書の御手洗《みたらい》と申します。不躾に申し訳ございませんでした。先ほど社長をお連れしたときに、奥様がご不在でしたので……」


彼女が、手に提げたビニール袋を広げる。だけど私は、秘書という言葉に衝撃を受けていた。
秘書だなんて、言ってなかった。


「これ、どうぞ使ってください。風邪と疲れが出たのだろうとお医者様では言われました」

「あ、ありがとうございます」


受け取った袋の中には、経口補給水と冷却シート、柑橘系の果物が入っていてずっしりと重い。


「それでは。明日の体調などまた知らせてくださいと社長にお伝えください」

「ありがとうございます、お手数をおかけしました」


会釈し、その場を立ち去ろうとした彼女に、ふっと沸いた疑問を投げて呼び止めた。


「あの。入ってくるとき大丈夫でしたか? 入口のコンシェルジュさんに止められたりは……」


葛城さんと一緒だったときは問題ないだろうし、駐車場からエレベーターで上がったのならロボットゲートを通過した後はコンシェルジュと会わずに入れる。
だけど、今は?


「お伺いしたのは初めてではないので覚えていてくださったみたいです。御手洗ですと言ったら通してくださいました」
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