艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~


「……わかった」

「えっ」


ぱっ、と顔を上げる。怒ってるかと思ったけれど、彼は苦笑いを浮かべていた。


「ほ、ほんと?」

「ノート持ってきて、ここでできる仕事だけする。熱が上がったら寝る」


経営者なのだ、どうしても外せない仕事もあるのかもしれない。ここで仕事をしてくれるなら、私も無理をしないよう見ていられるし、安心だった。
頷いて近づき、スマホを手渡す。すると、彼が片手で私の頬に手を当てた。


「昨日寝てない? 風邪が移るといけないしゲストルームで休んでくれてよかったのに」

「病人ほったらかしになんてできないですよ」


……眠れなかったのは、それだけが理由でもないけれど。その話は、彼の体調が回復してからだと決めている。


「ありがとう」


そう笑ってくれた顔が嬉しいのに、純粋には喜べなくて。
泣きそうになってしまった。


「藍?」


心配そうに私の表情を伺う彼に、「早く元気になってください」と言ってごまかした。



< 294 / 417 >

この作品をシェア

pagetop