艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「……わかった」
「えっ」
ぱっ、と顔を上げる。怒ってるかと思ったけれど、彼は苦笑いを浮かべていた。
「ほ、ほんと?」
「ノート持ってきて、ここでできる仕事だけする。熱が上がったら寝る」
経営者なのだ、どうしても外せない仕事もあるのかもしれない。ここで仕事をしてくれるなら、私も無理をしないよう見ていられるし、安心だった。
頷いて近づき、スマホを手渡す。すると、彼が片手で私の頬に手を当てた。
「昨日寝てない? 風邪が移るといけないしゲストルームで休んでくれてよかったのに」
「病人ほったらかしになんてできないですよ」
……眠れなかったのは、それだけが理由でもないけれど。その話は、彼の体調が回復してからだと決めている。
「ありがとう」
そう笑ってくれた顔が嬉しいのに、純粋には喜べなくて。
泣きそうになってしまった。
「藍?」
心配そうに私の表情を伺う彼に、「早く元気になってください」と言ってごまかした。