艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
今もまだ、寝泊まりできるようにベッドと洋服ダンスくらいは置いてある。
奥の部屋へ直行しようとした時、兄の部屋のドアが開いた。
「……玉砕したか。親父には何言っても無駄だろ」
ひょこっと顔だけ出した兄が、悔しさで涙の滲んだ私を見て言った。
父の頑固具合は、ずっと跡継ぎとして仕込まれてきた兄の方が身に染みているのかもしれない。
「むかつく。ハゲればいいのに」
水餅みたいに。つるっつるに剥げてしまえあの頑固親父。
と、さっきどうにか飲み込んだ悪態を吐き出した。
すると、苦笑いをした兄がちょいちょいと私を手招きをする。
「説明だけは、してやるよ。今の花月庵の現状」
親父には内緒な、と小声で囁く兄に頷いて近寄ると、ドアを更に開いて私を中へ招き入れてくれた。