艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
清い、というその言葉が、決して良い意味で使われたわけじゃないことはすぐにわかった。
だけど彼が何を言いたいのかわからない。
訝しんでいると、手の中で携帯が震えた。


「あっ」


葛城さんからの着信だった。
仕事中だろうに、メッセージではなく通話着信であることを珍しいなと思いながらも、ほっとした。これで、柳川さんから離れる口実になると思ったのだ。


だけど、スマホを持つ手をいきなり柳川さんの大きな手で捕まれた。


「ちょっ……、何をっ」

「しー……。出なかったら、面白いものが見れるよ。藍ちゃんを探しに葛城が出てくる」

「え?」

「藍ちゃんとロビーにいるって連絡しちゃったからさ」


にこ、と笑った彼の手が、私の手を逃がさないようぎゅうっと強く握りしめた。


……さあ、と血の気が引く。
私は、もしかして利用されたのか。


さっき、世間知らずだと馬鹿にされた意味がわかった。
私は本当に、馬鹿だ。


どうして葛城さんに相談しなかったのだろう。
マンションの前で柳川さんに会ったことをちゃんと話していれば、葛城さんが何か対応を考えたはずだ。
まさか、いくら逆恨みをしているからって。


「ここで大きな声出したら、騒ぎになっちゃうよ。俺が大声で騒ぎ立ててやる。カツラギの社長、新妻と愛人を天秤にかけ修羅場、ってさ。説得力あるよ、絵里と引き換えって言ってあるから連れてくるはずだ」


こんな風に、理不尽に誰かを脅したりするようなことがあると思っていなかった。そんな人が現実にいるなんて、思いつきもしなかったのだ。

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