艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
真っ青になって、それ以上言葉が出ないでいると、兄がぽんっと私の頭に手を乗せる。
「今に始まったことじゃないんだよ。花月庵の古い顧客や歴史を欲しがってた他社は多い。特に、どら焼きで名前上げてきた柳楽堂とかさ、どっちかというとそっちに乗っ取られるかと思って警戒してたとこにカツラギにやられたから、驚いたけど」
「そうなんだ……」
「そ。昔っから敵だらけ。だから親父は、お前には関わらせたくなかったんだと思うよ。ばあちゃんが政略結婚だったから、娘の藍には普通に結婚させてやりたいんだろ」
つん、と鼻の奥が痛くなった。
父は頑固だけれど、人は良い。横暴だけれど、父なりに私を守ろうとしてくれたのだろう、とは、それくらいは察することも出来る。
「……だから、ハゲろってのは止めてやって」
「……わかった」
「遺伝子上、俺もビビる」
兄の冗談に、くすっと笑いが漏れた。笑っている場合じゃないのだけれど、どうにもならないから笑うしかない。
兄を跡継ぎとして店の全てを委ねること、私を店から遠ざけること。そのどちらも、父なりの愛情には違いないのだろう。
だけどだからといって、ずっと蚊帳の外のままでいいのだろうか。私だって、花月庵のことは大事に思っているのに関わることさえ許してくれないのは、一方的過ぎる。