艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~

「あの日、藍ちゃんに会ってあんまり君が能天気なもんだから。仲違いすりゃざまぁみろと思ったけどね。どうやって近づこうかと思ってたけど、本当、今日はいい餌が来てくれて助かったよ」


少しずつ、柳川さんの瞳に影が差す。いや、ずっと帽子と笑顔に隠されていて私が気が付かなかっただけで、ずっとそこにあったのかもしれない。


「柳楽堂を立て直すには今の経営陣は印象が悪すぎる。代替わりすることになったよ、俺が跡を継ぐ路もなくなった。絵里もいなくなった。失うものがなくなった人間ほど怖いものはないって言うよ」


ぞく、ぞく、とさっきから嫌な寒気がおさまらない。
人の悪意に直に触れたのは初めてで、震える足がちゃんと役に立ってくれるかは、わからないが。


……葛城さん、ごめんなさい。
私のせいで、葛城さんを困らせるのはいやだ。迷惑をかけるのは嫌だ。


捕まっている手とは反対の手を、気取られないように横に立てかけていた日傘の柄に伸ばした。


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