艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~


その時だ。


「藍!」


私の名前を呼ぶ葛城さんの声がした。


「ああ、来た来た。やっぱ藍ちゃんが餌だと食いつきが違うなぁ」


慌てて声のした方角を見渡した。けれど、どこにも葛城さんの姿が見えない。周囲は何か異変を感じ、ざわめき始めていた。


「行こうか」

「えっ?」


柳川さんが私の手を掴んだまま立ち上がり、強引に引き寄せた。
その拍子にスマホが床を転がってしまう。けれどどうにか、日傘は離さなかった。


「どこにっ?」

「葛城のとこ。絵里に会えたらちゃんと離してあげるって言っただろ」


どこに連れて行かれるのかと抵抗してその場に留まろうとする私を、めんどくさそうに睨んでため息を吐く。


片腕を私の肩に回し無理やり歩かせると、一階が見渡せる手すりに近づき階下を見おろした。


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