艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「……葛城さんっ」
あんなに険しい顔を見たのは初めてだった。警備の人だろうか、制服の男性数人に指示をしながら必死に私を探している。
だけど、御手洗さんの姿はどこにもなかった。
柳川さんが、苛ついたように舌打ちをした。
「なんで絵理を連れてないんだよ」
「あの……絵理さんは柳川さんの、恋人?」
いくら彼女が名字を嫌いでも、親しげに下の名前で呼ぶなんて個人的な関係でしかありえない。
私の質問に、柳川さんが吐き捨てるように答えた。
「付き合ってたよ。なのにあの女、いきなり発注履歴や取引データを事務所から盗んで消えたんだ。逃げ込んだ先が葛城のとこだ。あとは言わなくてもわかるだろ?」
言葉の最後は、目尻を吊り上げ顔を真っ赤にして怒りに唇を震わせた。
「葛城が言い寄って利用して、やらせたに決まってる」