艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
片足を上げ、ヒールで思い切り柳川さんの足を踏みつけた。


「いっ!」


短い悲鳴が聞こえたのとほぼ同時に柳川さんの手が緩む。私は振り返りながら日傘を振り抜いたけれど、それは柳川さんの腕に当たっただけで大した威力はなかった。反動でそのまま手から滑り落ちてしまう。


「このっ!」


かっとなった柳川さんが、ぎらりとした目で私を睨み付ける。その目から逃げるように再び葛城さんの方へと向き直り、走り出した。


「藍!」


葛城さんもこちらに向かって走り出していて、必死の形相で手を伸ばしてくれている。


後少しだった。
もう少しで手が届く。


柳川さんの怒鳴り声が聞こえた。
そこからは、スローモーションの世界だった。
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