艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「あ……そう、でした、か」

「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。お気づきだとは思いますが、彼女はどうやら葛城社長に好意を持って近づいたようで……あの日も同行先で社長の具合が悪くなりお送りして、社長はひとりで大丈夫だと言ったのですが。心配だからせめて見舞いの品だけ届けさせてくれというので、一度戻ったのです」

「じゃあ、安達さんも一緒にいらしたんですか」

「あの状態の大人の男を女性ひとりでは無理でしょう。社長を連れて上がる時は、地下駐車場に停めたので一緒に上がったのですが、二度目に戻った時はエントランスで彼女が車を飛び出して行ってしまい……何か意味深な言葉でもかけられましたか」

「あ……いえ。大丈夫、です……」


秘書だ、とは言ってたけど葛城さんの、とは言ってなかった。
秘書室に居たのだから決して、嘘ではない。


葛城さんだって、本当のことしか言ってなかったんだ。
力が抜けてしまい、またほろほろと涙がこぼれる。


安達さんが、一人分ほどの空間を空けて隣に座り、これまでの成り行きを話してくれた。
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