艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
***

お医者さまの話では、検査の結果も特に異常はなくあちこちぶつけた打撲と頭部の裂傷のみで済んだ。
念のため一泊入院することになり、ストレッチャーで病棟の個室に移動する。
処置中に葛城さんの意識も戻っており、それを知った安達さんはすぐに事後処理のため会社に戻っていった。


病室でふたりきりになったころには、すっかり外は暗くなっていた。
枕元まで丸椅子を寄せてきて、彼の様子を窺う。
意識は戻っていても、強く頭をぶつけたせいかぼんやりとして、すっきりしない状態らしい。


「……良かった……良かった、ほんとに」


ともかく、命に別状はなくてほっとした。
それでも頭に包帯を巻かれた姿を見るとどうしても嗚咽が込み上げる。
抑えきれず小さくしゃくりあげた。


「ごめんね。心配かけた」

「……っ、どうして、葛城さんが謝るんですか」


謝らないといけないのは、私だ。それなのに、彼はベッドに横たわったまま私に向かって手を伸ばし、優しく頬を撫でてくれる。
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