艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「僕は何もしてないけれどね。……頼ってくる人間全てに不用意に手を貸していると、きりがないよ。今回は怪我で済んだから良かったものの」
優しい顔で、割り切ったことを言う人なのだな、と驚いた。でも私も、もう葛城さんが怪我をするようなことは嫌だ。
階段の下で倒れていた姿が頭に浮かび、ふるりと身体を震わせたとき。そっと腰に回った手が、少しだけ私の身体を引き寄せた。
「……気を付けます。もうひとりでもないので」
「か、葛城さんっ……」
嬉しいけれど、恥ずかしい。
真赤になって俯いていたのだが、朝比奈さんの反応がない。ちら、と目線を上げて窺うと、彼は至極真面目な顔で私たちを見て言った。
「……僕も、早く結婚したいんだけどね」
いつかも聞いたセリフだった。