艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「……本当に、藍が作ってくれるのが、一緒に食べられる時間が幸せだった。それだけだから。頼むよ、君に泣かれるのが一番困る。どうしたらいいか、まったくわからなくなる」
そう言って、涙目で睨む私の目尻に口づける。
そんな風に言われたら、これ以上はもう、怒れないではないか。
彼のキスが、目尻から頬、やがて唇にたどり着く。
「……許して?」
軽く啄んで、ちょっと情けない顔で私のご機嫌を窺う彼に、私は拗ねた口調で言った。
「……許してもいいですけど、もう作りません」
「えっ、まって、ほんとに俺楽しみにしてるのに」
だって、苦手だってわかってる人に甘いものを作ったりなんて、できるわけがない。
私だって、ふたりで甘いものを食べてゆっくりとキスをするあのひと時が、とても幸せだったけれど。
でも仕方ないから、新しい幸せの時間を作ればいいと思う。
少し背伸びをして、彼の耳元で囁いた。