艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
夏頃、時折不安そうな表情を浮かべる彼女がいた。
せっかく一緒に住み始めたのに、俺が忙殺されているためだろうと、できるだけ早く仕事を切り上げるようにした。
ずっと、というわけにはいかないが、せめて彼女が生活に慣れるまでは、そう思って。
まさか柳川に会ってあることないことを吹き込まれているとは思わず、不安の理由に気付けていなかった。
柳楽堂の事件や御手洗のことを詳細に話せば、彼女の祖母のことまで話が及ぶ。
祖母を慕う彼女には聞かせないと決めているのに、こちらを真っ直ぐ見つめる目と視線が合えば、作り話をでっち上げるのも苦しい。
守りたかったのに、結局怖い目に合わせてしまったことが今も悔やまれた。
それなのに。
何も問い詰めず、今もまっすぐ俺を慕ってくれる藍に、日に日に愛しさは増す。
「……藍」
ソファで彼女を抱き寄せ、数度唇を啄んだ。
それだけで、とろんと目を潤ませる彼女に、必然的に身体は熱くなる。