艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「よく似合ってる」


自分が今、頭の中で思っていたことを葛城さんの口から聞いて、一瞬混乱する。だけど、その目線で私の着物のことだとわかった。


袖の端を持って、軽く持ち上げると袖が揺れて、金の糸がキラキラと輝いた。決して派手すぎない色合いなのに、華やかで繊細な刺繍が美しい、ひとめで上質のものだとわかる。


葛城さんが私のために用意してくれたのだと聞き、散財じゃないかとかこの贈り物の裏には何が、とか頭を過ったけれど。
やっぱり、袖を通して着てみると嬉しくて、つい表情が綻んだ。


「ありがとうございます。こんな素敵なお着物、びっくりしました」

「ちょっとくらいは、喜ぶ顔が見たいなと思って。まだ怖い顔しか見てないからね」

「えっ。そんなことないですよ、最初はちゃんと笑って……」

「作り笑いのね。警戒心丸出しの」


そう言われれば、その通りかもしれないが。


「仕方ないじゃないですか。警戒してますもん」


当たり前のことだし、それは今も変わらない。
私達はこれから、信頼を築いていく、そういう結婚をするのだ。


だから敢えて、現在進行形で言った。
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