艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
どくん、どくん。


高鳴る鼓動が恋のときめきというものなら良いのだけれど、今はまだ間違いなくこの先へ踏み出す直前の、緊張からだ。


指先にひやりと冷たく固い指輪が触れたとき、ぴくっと震えて無意識に手を引き抜きそうになる。だけどそれは、ぎゅっと握られた彼の手の力に負けた。


「今日から君は俺のものだ」


ゆっくりと、指輪が通る。
その時間がまるで、これからの私の運命を実感させられているようにも感じた。この指輪をつけたらもう逃げられないのだと、言い含められているようだった。


きゅっと指の根本で指輪が止まる。そこで観念したかのように、はあ、と力が抜けてしまった。
それと同時に、急にその手を引かれた。


「あっ」


腕の中に抱き留められ、顔を上げればすぐ目の前に葛城さんの整った顔がある。
唇の端が上がり微笑みが象られたとき、ぞくりと畏れを抱く。もう片方の手が私の頬にあてられ、暖かい昼中に似合わない冷たさを伝えた。


飲み込まれてはいけない。
弱気になってはいけない。


私はしっかりと膝に力を入れ彼の腕に頼らずひとりで立った。
真直ぐに下から彼を睨みつけると、自分から彼の手を握り返してみせる。
私が自分で決めて飛び込んで来たのだと、自分自身にもう一度自覚させたかったのだ。

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