艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
男性のほとんどは仕事の延長上なのだろう、ビジネスシーンとさほど変わりないスーツだが女性陣は華やかだった。
着物の人も少なくないが、若い女性はパーティドレスが多い。
洋菓子業界きってのお祭りだ。名立たるメーカーのトップが集まっているのだろうとわかっているが、はっきり言って私には誰が誰だかわからない。
そしてきっと、私のことも誰も知らない。けれど、この人、葛城さんのことは違うようだった。
それまで歓談していた人も、話を止めて彼を見る。それから横にいる私に気づく。特に女性陣は嬉しそうに表情を綻ばせたあと、私を見て眉を顰めることが多かった。
気後れがする、どころではない。
背筋を伸ばしてまっすぐ、前を見ているしかなかった。そんな私の真横でくすりと笑う声がする。
「そんなに緊張しなくても」
「しないはずがないじゃないですか。葛城さんが歩くたびに周囲の視線も動いてますよ」
「大袈裟だな」
ちっとも大袈裟な話ではないが。
ふと気が付けば、葛城さんの手にグラスがふたつあり、ひとつを私に差し出してくる。
「お酒は飲める?」
「……いただきます」
細長いグラスの中では、美しい金色の液体が揺れている。くるくると細やかな泡が弾けていた。
くい、とひとくちふたくち含んでいると、彼が顔を寄せて小さな声で囁いた。
「柳楽堂も来てるから気を付けて」