艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「ところで、そちらのお嬢さんは?」
その言葉に、私もぱっと女性から視線を外した。新藤さんの目が何か探るように私を見ている。葛城さんは柔らかく微笑んで、私の背中の、結んだ帯の少し上に手を添えた。
「花月庵のお嬢さんですよ。藍さん、こちらは『ジゼル』の新藤さんです」
来た、と思った。
「初めまして、望月藍と申します」
ゆっくりとお辞儀をして、少し静止したあと顔を上げて背筋を伸ばし、微笑む。頬がひきつりそうだ。
「花月庵の……! それでは、葛城さんと」
「少々、ご縁がありまして」
と返事をしたのは葛城さんだ。そして私は、助言をされた通りにはにかむフリで視線を外し、左手で口元を隠した。
ちらりと女性の方へ目を向ければ、しゅんと眉尻を下げた表情でピンと来る。恐らく彼女は新藤さんの娘さんかもしくは親族で、葛城さんとの『ご縁』を期待していたのじゃないだろうか。
「それはそれは。おめでとうございます」
「いえいえ、まだ何も決まってはいませんよ」
言いながら、少し照れたような表情で私を見る。
私に指輪を見せびらかすよう指示しておいて、何も決まってないとは白々しい。
……この、狸。
このパーティでいきなり私との関係を知らしめようとした理由のひとつは、どうやら自分に持ちかけられる縁談を穏便になかったことにするためらしい。