Jewels
琥珀は一息ついて、真面目な顔で言う。


「金剛の代役くらいはできるぞ。」

「え?」


翠玉は驚いて琥珀を見る。
冗談を言っている顔ではなかった。
優しい、目をしていた。


「金剛のところに来ると、紅玉様やらじいさんやら、色んなやつらが渋い顔するだろ。だから、『兄様』に会いたいなら、俺のところに来ればいい。」


翠玉はくすりと笑う。


「琥珀のところだって、みんなそんなに良い顔しないと思うわ。」

「それもそうか、なにせ一般庶民だからな。」


琥珀はおおげさに腕組みをする。
翠玉は自分が笑っていたことに気付く。

優しいのだ。
琥珀は、昔から。


「だいたい」

「ん?」


翠玉が思わず呟いた一言に、琥珀は邪気のない表情で向き直る。
翠玉は我に返り、首を振った。


「…いいえ、何でもないの。」


翠玉は慌てて琥珀から顔を背ける。
琥珀は言葉の続きを察して翠玉に話しかける。


「俺じゃ金剛の代わりにはならねぇ、そう言いたいのか?」


翠玉は返事をできなかった。
その通りだからだ。

琥珀は優しい、しかし金剛の代わりにはならない。

金剛は金剛で、琥珀は琥珀だ。
別人なのだ。

翠玉は背を向けたまま固まっていることしかできなかった。


「…お前はほんとに『兄様』が好きなんだな。」


琥珀は仕方ないな、と言った様子で優しく翠玉の頭をなでる。

しかし、真剣な声で続けた言葉はこうだった。


「けどな、翠玉、これだけは忘れるなよ。金剛は、紅玉様のものだ。お前だけのものじゃない。王がそれを決めた時から、紅玉様のものになったんだ。」


琥珀の言葉がまっすぐに翠玉の胸を刺す。
翠玉の胸が、ずきん、と傷んだ。

琥珀の優しいはずの手が、翠玉の心をやんわりと押しつぶしているかのように感じた。
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