Jewels
「わたくしは金剛様に愛されていないの。」

「…まさか。」

「だって、金剛様はわたくしといても楽しそうではないんです。貴方や黄金様や翠玉と話している時の様な金剛様は、いつも快活で活き活きとしていらっしゃるのに、わたくしと話す時の金剛様はいつも穏やか。まるで心ここにあらずなんですもの。」


紅玉は声が震えているのを悟られないように、努めて明るい声で話そうとした。
しかしそれも琥珀の耳には自嘲気味に響くだけだ。

何か言って慰めてやりたいのに、琥珀には言葉が思いつかない。
抱きしめてやりたいがそれも出来ない。

琥珀は単なる採掘工で、紅玉は王家の姫であるから。

鮮やかに輝くルビーが曇ったからと言って、泥を上塗りしてどうするというのか。

琥珀は庶民であるがゆえに、紅玉に触れることさえ叶わない。


「石の方が、魅力的なんでしょうね。」

「貴方だって、充分魅力的です!」


琥珀は懸命に考えた言葉を口にする。

けれど紅玉は、哀しげな表情でわずかに微笑むと、冷たく返事をした。


「有難う。残念だけど、貴方のお世辞じゃ余計に惨めだわ。」


そう言ってすばやく工房を後にする。
気品あふれる背中は堂々としていて、先ほどの涙がこぼれてしまったのかどうかは判らなかった。

琥珀は何も言えず、工房に佇んでいた。
心からの言葉すら通じなかった、無力感に包まれて。

紅玉を幸せにできるのは金剛だけで、庶民の自分が何を言ったところで、何一つ紅玉の幸せにはならないのだ。







本当はきっと誰より、紅玉の幸せを願っているのに。




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