Jewels
馬が高台に着いた頃、ちょうど日が暮れ始めた。

地平線に日が落ちてゆき、空が金から橙、ピンク、紫、そして青へと色を変えてゆく。


馬から降りたふたりは草原の上に座って、夕焼けを眺めていた。

綺麗な夕焼けだったが、翠玉の心は暗く沈んでいた。


金剛は未だに情熱を向けられる相手を探している。
それはすなわち、自分へもその情熱は向いていないことを示している。

いったいどうしたらよいのだろう。
こんなに傍にいるのに、昔から一緒にいたのに。
どうしたら、金剛の気持ちをこちらに向けることができるのだろう。


翠玉の悩みをよそに、金剛は気持ちよさそうに言った。


「きれいだなぁ。色んな色が混じって輝いて、オパールみたいだ。」


相変わらず石のことばかり連想する金剛に、翠玉は少し笑う。

自分の方を振り向いてくれない悔しさを皮肉に込めて、いたずらっぽい表情で言った。


「兄様は、石と結婚すればよいのだと思うわ。」


金剛は、笑うだけだった。
夕陽に染まる、より鮮やかな笑顔。
柔らかな金髪が、夕陽を反射して、きらきらと風に揺れた。

金剛の心は、石のことばかり。
それでもいい。
翠玉は、今この瞬間、隣で自分だけに向けられている金剛の笑顔を、目に焼き付けていた。





想いが露わになってしまってはいけないのだ。
紅玉と同じように、金剛からの愛を求めるだけになってしまう。
今のまま、妹のまま、傍にいられるなら、それが一番だろう。

そのために姉の幸せを願うのだ。
紅玉が本当に金剛と結婚するのなら、翠玉もずっと一緒にいられるということなのだから。



紅玉にも、金剛にもこの思いは秘め、隠し通さなければいけない。



翠玉は、密かに誓っていた。


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