Jewels
工房に戻った金剛は、また、ラピスラズリの細工に取り掛かる。

翠玉は、いつものようにおとなしくそれを見ていた。


藍色の石。

散りばめられた細かな星のようなきらめき。

藍色の髪。

意志の強そうな藍色の瞳。


金剛が愛しげに石を扱うたび、翠玉にはそれが瑠璃への扱いに見えて仕方がなかった。


胸が苦しい。


小さな頃から、長い間一緒にいる翠玉ですら、そんな優しい扱いを受けたことは無い。

それが、少し話しただけの瑠璃に、どうして?

瑠璃にどれほどの魅力があるというのだろう?


自分のことはともかく、紅玉のことを考えてみるとその差は明らかだった。

華やかで美しい紅玉。

瑠璃も美しいことには違いないが、巫女という職業柄慎ましく、地味なように翠玉には思えた。

紅玉は決して瑠璃に劣るような魅力の持ち主では無い。
ましてや金剛の婚約者だ。

それなのに、なぜ、紅玉にすら与えたことのない扱いを、瑠璃は受けているのだろう。



翠玉は、自分が紅玉に抱いていた嫉妬の対象が、明らかに瑠璃にすりかわったことに気付いた。


できることなら金剛の隣にずっといたい。

そこは自分の居場所であってほしい。

しかし金剛は自分のものでは無い。

強いて言えば姉である紅玉のものだ。

親が決めた取り決めであるのだから仕方ない。

女として隣にいることが許されないのなら、せめて妹としてでいい、金剛の傍にいたい。


そう思っていたのに。
心に決めたばかりだったのに。

金剛は、今、まったく未知の女性に心を奪われようとしている。


未知の女性に奪われて、自分の傍から金剛が消えてしまうのならいっそ…



翠玉は頭を振る。

なんと醜い感情だろう。

金剛の傍にいることが、こんなに辛くなる日が突然やってくるとは、思ってもみなかった。


「兄様、わたし、帰ります。」

「あぁ」


金剛は石彫りに夢中で、翠玉の言葉が聞こえていないようだった。

< 42 / 72 >

この作品をシェア

pagetop