Jewels
紅玉は部屋に戻ると、ベッドに倒れこんだ。


自分のために、金剛が石を彫ってくれる。

もしそれが叶うなら、どんなことがあっても大切にするだろう。


しかし。
紅玉の思考は反転する。

自分の頼みで作ってもらうことに意味はあるのだろうか?
金剛の自発的な意思ではなく、紅玉の意思によって、金剛を動かすことに。

果たして出来上がったものに、金剛の紅玉への想いは込められているのだろうか?


期待は出来ない、と紅玉は思った。

自分と会っている時の金剛を思い出す。
いつも上辺だけで取り繕っているような。
『王子』としての仮面を被っているような。

翠玉が羨ましかった。
『金剛王子』ではなく、紅玉の知らない『金剛』自身を知っている。
そんな気がしていた。


金剛のことになると、紅玉はつい悲観的になる。



愛されている自信が無いのだ。



誰からも認められた、公認の正式な婚約者であるのに、愛されている自信が無い。

金剛は自分のことをいったいどう考えているのだろう?

石を思う時間と、私を思う時間と、どちらが多いだろう?

あまりに明確な問いはますます紅玉を落ち込ませた。


自分に自信が無いわけではない。
王家の姫として恥ずかしくないよう、それなりに自分を磨く努力はしている。
自分に対する評判も悪くないことを知っている。

それなのに、何故、よりによって金剛の気持ちが掴めないのだろう。


紅玉はベッドの上で大きくため息をつく。


気分を切り替えよう。
まず駄目だとしても頼んでみることだ。

そして、私のための細工物を作る間だけでも、少しでも金剛の頭の中に自分の存在があったなら、それはそれで幸せなことではないか。


そう、少しでも。



紅玉は少しでいいから金剛の心に入り込みたかった。

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