Jewels
ひとりの老人が、必死な様子で部屋に入ってくる。
老人は男を目でとらえると、大きくため息をついて言った。


「金剛様!やはりこちらにおられましたか!」


金剛と呼ばれた男は面倒そうに返事をする。


「なんだ、黄金、血相を変えて。大した用事も無いのに騒ぐな。」

「何も無いのに騒ぐほど黄金は暇ではありません!金剛様を探していたのではありませんか!」

「大した用事も無いのに探すな、と言っているのだ。お前は俺の言葉の意味も汲み取れない程モウロクしたか?」

「金剛様!またそのような口の利き方を!」

「怒るな怒るな、寿命が縮むぞ。」

「金剛様!!」


金剛は、黄金がいちいち怒るのを楽しむかのように言葉を続ける。
黄金をからかって遊んでいるのだ。


金剛は、この国の王の嫡男、第一の王子であった。

黄金はその世話役。
小さな頃からこの我が侭な王子の傍で、時に暇つぶしにとからかわれ、時に知識の足りない王子を諌め、世話を焼いてきたのである。

金剛にとっても、黄金は充分に信頼がおける、実の親よりも甘えられる存在であった。

ふたりの口喧嘩は、心を許している表れでもあったのである。

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