Jewels
藍色の髪の巫女が、金剛の胸の中にいる。


翠玉は瑠璃のイメージを拭い去るように頭を振った。

琥珀に悟られてはいけない。誰にも悟られてはいけない。


金剛が、こともあろうに巫女に心を奪われたかもしれないなどと。


聖職者に恋は禁忌だ。しかも瑠璃は巫女の頂点に立つ3人のひとりだ。

もしも金剛が本当に瑠璃に恋をしてしまったとしたら、たとえ王子といえど地位は危ういだろう。

だから瑠璃のことは誰にも知られてはならない。


そして、金剛は確実に紅玉の側にいてもらわなければ、翠玉は困る。
姉のためというのも所詮欺瞞だ。
自分が金剛の側にいたいから、紅玉に金剛の側にいてほしいのだ。

翠玉は息を飲む。
誰にも悟られぬよう、金剛の心を紅玉の方に向けねばならない。


翠玉は琥珀を見つめなおして、つぶやく。


「琥珀には悪いけれど、琥珀も兄様と姉様がうまくいくように応援してあげて。」


琥珀は顔を赤らめる。


「琥珀には悪いけどって、なんだよ、それ。」

「ごめんなさい、私、琥珀にひどいこと言っているの、判っているわ。だけど、姉様の幸せを祈るなら、姉様を諦めて。私も兄様を諦めるから。」


琥珀は顔を背ける。
気まずい沈黙だった。


「『欲しいものは、手に入るとは限らない』んでしょ?」


琥珀は顔を背けたまま、少し笑った。


「…俺は、誰よりも、紅玉様の幸せを祈ってる。」


翠玉は、琥珀の気持ちを痛いほど感じていた。

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