Jewels
琥珀は翠玉に何があったのかが気になって、金剛のもとを訪ねようとしていた。

いつものように窓から忍び込み、作業室に入ろうとする。

が、作業室から聞こえてくる音が石を彫るものだけでないことに気づき、足を止めた。


作業室から聞こえてきたのは、人の声だった。
凛とした、女性の声。

聞き間違えようもない。
紅玉だった。


琥珀は作業室に入る手前で息をひそめ、2人の様子を窺う。


「素敵な石ですのね、金剛様。」

「ええ。」

「なんという石ですの?」

「ええ。」

「金剛様?」


紅玉は懸命に金剛に話しかけるが、金剛は上の空。
いつも翠玉が繰り広げている光景を、珍しく紅玉が繰り広げていた。

紅玉はわずかに笑う。


「本当に、石彫りに夢中なんですのね。」

「ええ。」

「お邪魔はしたくありませんから、ひとりで喋りますわね。」

「ええ。」

「わたくし、前から見てみたかったんです、金剛様が夢中になる石を。今日は見ることができて嬉しいですわ。とってもきれいな細工物…腕輪かしら?藍色で、星みたいなきらめきで…初めて見ます、こんな石。金剛様が夢中になるのも解りますわ。」


紅玉が喋り続けるので、金剛はもう返事すらしない。

紅玉は深呼吸をして、一際凛とした声で、本題を切り出した。


「あの…わたくしのために、なにか石を彫って細工物を作って頂けないかしら。」


金剛の返事は無い。


「金剛様に作って頂きたいんです。大事にしますから。…お願いです…。」


ふと、金剛が作業の手を止めた。


「申し訳ない、紅玉姫。しばらくは、無理そうです。」


突然返事をした金剛の言葉の意味を、紅玉はしばらく理解できなかった。

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