Jewels
瑪瑙が神殿にたどり着くと、入り口を入ったところのホールの奥に翠玉が立っているのが見えた。
燭台に点されたろうそくの灯りが、室内をほんのり照らしている。
翠玉は、祭壇に向かって何か祈っている様子だった。


「翠玉?」


瑪瑙は声をかける。
翠玉が驚いて振り向く。
涙眼だったように見えたのは、光のせいか。
翠玉は目元をごまかすようにこすり、平素の顔に戻る。


「瑪瑙…こんなとこでめずらしいわね。」

「あぁ…ちょっと用事があって…。」


瑪瑙は言葉を濁す。

金剛に近い位置にいつもいる翠玉に手紙を頼まなかったということは、翠玉では届く当てがないということだろう。
単純に、王家の人間では目立つ、という理由もあるかもしれないが…
手紙のことを翠玉に知られてはいけない。

瑪瑙は馬鹿ではない。
それくらいのことはわかった。


翠玉は笑って瑪瑙に歩み寄る。


「なぁに?金のことばっかり考えていてすみませんって、懺悔でもしにきたの?」

「はっ、そんなこと今更反省するまでもねぇよ。」

「じゃぁ何よ?」

「まぁ、単なる散歩。美人の巫女さんにでも会えるかなって。」


翠玉はあからさまに顔をしかめる。


「瑪瑙まで…なに、神殿の巫女って人気なの?」

「瑪瑙までって?他にも誰か言ってたのか?」

「…知らない。で、人気なの?」

「うーん、神秘的で、高潔で、人を寄せ付けない感じが、逆に惹かれる要素ではあるかなぁ。」

「ふぅん…、男って、馬鹿みたい。」

「どうした?まさか愛しの金剛兄様が巫女にうつつをぬかした、なんて言わねぇよな?」
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