Jewels
翠玉の頭に血が上る。
瑪瑙が神殿にいる理由。
手紙の宛先。
金剛の文字を見ただけで、全てが読み解けてしまったからだ。

一瞬凍り付いた心臓が、急速に心拍数をあげてゆくのが判る。

翠玉は瑪瑙に詰め寄る。


「兄様に頼まれたのね!?それで神殿に来た、そうでしょう!?」


瑪瑙は返事をできないでいる。
翠玉は相変わらず逆上したままだ。
頬を火照らせ、肩で息をしている。


「瑪瑙、どうせお金なんでしょう、口止め料を請求してこんなことしてる、そうね!?」


瑪瑙は肯定も否定もせず黙って翠玉を見つめている。

翠玉は燭台に燃える炎をじっと見つめ、口を開いた。


「この手紙、破って燃やして。」

「え!?」

「兄様の倍払うわ。だから、今すぐここで破って燃やして!」


手紙を瑪瑙に突きつけ、恐ろしい剣幕で詰め寄る。
真剣に瑪瑙を睨んでいる翠玉の瞳に、ちらちらと炎が映り込んでいた。
まるで、翠玉の心に燃えて消えない炎のように。

瑪瑙は翠玉の手から手紙を受け取ると、念を押すように言った。


「金剛の、倍だな?」


翠玉は迷うこと無くうなづく。
それを確認すると、瑪瑙は手紙を破り、燭台のろうそくから火を点ける。
神殿の外へ行くと、地面に火の点いた紙切れを落とし、全ての紙切れをそれにかぶせた。

金剛の想いは、一瞬にして燃え上がり、白い灰になってしまった。
瑪瑙はそれを足で散らし、跡形も見えないようにする。
想いを、踏みにじった。
翠玉の胸がわずかにきしむ。


「これでいいか?」

「ええ…これでいいの…。」


翠玉は、まだ厳しい顔をしたまま、風に舞い散って行く灰を見ていた。
このような手紙は巫女に届いてはいけないし、ましてや形に残しておいてはいけない。
後からどこで誰に発見され、事が公になるかわからない。

全ては金剛のためなのだ。

金剛を、守るため。
そう信じて。

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