Voice -君の声だけが聴こえる-
 至極真っ当な答えが返って来て、詠斗は少し目を細めた。

『何せ、幽霊になったのは初めての経験なものですから。道標《みちしるべ》もありませんし、すべてを天命に任せるしかないようです』

 ふふっ、と笑ったその顔は見えないけれど、きっとものすごく前向きで楽しげなのだろうと思った。はぁ、と詠斗は一つ息をつく。

「……先輩、悩みなさそうだねってよく言われたでしょ?」

『なっ?!……し、失礼なこと言わないでくださいよっ』

「やっぱりそうだったんだ」

『あ、今バカにしましたね?! ありましたよ、私にだって悩みの一つくらい!』

「どんな悩み?」

『えーっと……ケーキに合うのは紅茶かコーヒーか、とか?』

「小さい悩みだなぁ」

 ははっ、と詠斗は声に出して笑った。同時に、こんな風に笑ったのはどれくらいぶりのことだろうと、少しせつない気持ちも芽生えたのだった。
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