FF~フォルテシモ~
***

「蓮、じゃあまた明日」

 爽やかに言って、マットは帰って行った。

 せっかく初めてお出かけしたのに店員に兄妹と間違われ、気分最悪の最中だったのに、マットの撫でなで攻撃に丸め込まれてしまった。

 帰り際に何かあるかもしれないとドキドキしながら待ってたのに、何もないまま終了。繋いでた手の温もりが、一気に冷めていく。

「もうちょっとくらい、積極的になってくれてもいいのに」

 ガッカリしながら家に入ると、ニコニコしたおじいちゃんが出迎えてくれた。

「おかえり。ちょっと話があるんだが、こっちに来てくれないかい?」

 おじいちゃんの書斎に入ると、机の上には履歴書が並べられていた。何でか、ホモ山田の履歴書もある。それらを見ていると、おじいちゃんに声をかけられる。

「その中で、気になる男はいないかい?」

「これ、会社の人間ばかりだよね。何人か知ってるのがいる」

 年齢は全て20代から30代前半、すべて独身者である。

「この間会議をした時に、重役達に声をかけてみたんだ。どれも将来有望な若者ばかりだよ」

 つまり、お見合い写真なワケなんだ。

 ホモ山田の履歴書を手に取って読んでいると、手元を覗き込むおじいちゃん。

「ああ、それは今川部長が推薦した男だね」

(マット、自分を推薦しろよ! なぜ山田を推薦するかな)

「とりあえず、コレでいいわ」

 山田の履歴書を押し付けるように、おじいちゃんに手渡した。

「山田賢一くんか。おじいちゃんは彼の方が、蓮に合ってると思うがな」

 そう言って見せてくれたのは、今川貴弘の履歴書だった。この間の合コンで話しかけられたけど、チャラい感じがしてスルーした。

「今川部長の甥っ子だよ。専務が勧めてくれたんだから、間違いないんじゃないかな」

「山田でいい。見た目より中身がしっかりしたヤツの方が安心するから」

 こっそり溜め息をつきながら考える。

 マットはどうして、自分の事を言わなかったんだろう。私と付き合う事になりましたって、ばばんと宣言すれば、おじいちゃんはこんなムダになる履歴書を用意しなくてすんだのに。

 明日お昼にとっちめてあげよう。奥手な彼氏をもつと、恋人として大変だ。
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