FF~フォルテシモ~
***


「ホモ山田っ、今川部長知らない?」

「ゲッ! 声がデカい……」

 周りを見渡しながら焦る山田くん。私は、それどころじゃないのよ。

「どこに隠したのよ?」

 何だか懐かしい、いつかのやり取りが展開した。

「仲直りして欲しいと思って給湯室に向かわせたんだけど、そこで会わなかった?」

「今川くんに襲われて、キスされたトコを目撃されちゃった」

 山田くんの耳元で、さっきの出来事を告げた。

「ゲッ。それは何というタイミング」

 あちゃーと顔に描いてある。

「でもね襲われてるのに、止めてくれなかったんだ。マットの奴」

「マットって、今川部長のあだ名。朝比奈さんが襲われたことが衝撃的すぎて、対処できなかっただけじゃないかな」

 私が悲しそうな顔をしたら、困った表情で呟く。

「一緒に出掛けた俺に嫉妬した様子だったから、今川くんの行為を目撃して今頃どうなっているのかな」

「マットが嫉妬したの?」

「俺がここへ戻ったときに自分の椅子をぶっ飛ばして、わざわざ買物の様子を訊ねたよ」

 山田くんの言葉を聞いて、心中複雑な気持ちに陥った。両手に拳を作り、ぎゅっと握りしめる。

(私の前では、そんな素振りを見せない大人なマット――)

「モテる彼女を持つと、彼氏は大変だね」

「頑張って捜しまくる。有り難うホモ山田っ」

「だぁから、声がデカいってば!」

 苦情を背中で聞き流しながら走り出した。マットは今、どんな気持ちでいるんだろう。
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