FF~フォルテシモ~
***

「またいないのね……」

「また来たんだね……」

 毎日このやり取りから始まる、経営企画部部署でのお昼時。目の前には憮然とした顔の山田くんがいた。

「いい加減に諦めなよ」

 諦めたら、そこで終わりになるじゃない。まだ何も始まってないのに。

「イヤよ! せめて、お茶出来るくらいの関係になりたい」

「何だよそれ。ワケわからん」

 呆れながら言う山田くんに、私は持っていた最終兵器を取り出す。

「コレ、何だと思う?」

 自作のポスターをこれでもかと見せつけてやったら、山田くんは小さい目を大きく見開き、表情を歪ませ絶句する。

「よく撮れてるでしょ?」

「いつの間に、そんなの撮影したんだよ」

「勿論、この間の合コンの時。メガネをかけたイケメンとあまりにも仲良さそうだったから、記念にと思って」

 楽しそうに言う私の手元から、最終兵器を奪う山田くん。

「つぅか、何枚撮ってるんだ。他にもこんなの作ってるし」

「社内報を作ってる部署に、コレを持って行ったら高値がつくかしら?」

「はい?」

「朝比奈さんとデキてるっぽい噂の山田くんが、実はホモだと分かったら、社員の皆さん揃ってさぞかし驚くでしょうねぇ」

 最近私が山田くんのもとに日参する関係で、周囲の目にはデキてるって思われている。

「最低だな、オマエ」

 眉間に深いシワを寄せて小さい目で睨まれても、全然怖くない。しかもその言葉、言われ慣れてるのよね私。

「協力しないとそのメガネのイケメンくんにも、被害が及ぶかもね」

 ちゃっかり念を押す事を忘れない手腕は、まさに完璧でしょ! 頭を抱える山田少年の顔が、面白いことこの上ない。

「分かったよ、協力でも何でもします」

 渋々OKさせる事に成功しちゃった。

「それじゃあ早速なんだけど、今川部長はお弁当派?」

「そだね。いつも手にお弁当の包みを持って、どこかに出掛けてるよ」

(なんか意外、弁当男子なんだ。もしかして、誰かに作ってもらってるのかな?)

「そのお弁当、自分で作ってるかどうか、さりげなく聞いてみてよ」

 うへぇって顔を歪ませた山田くんは、仕方なく頷く。

「ところで朝比奈さんは、ちゃんとお昼食べてるの?」

「今川部長を捜すのに必死で、時間がある時だけ食べてるけど」

「少しだけ痩せたよね」

「変なトコに気がつくのね、山田くんって……」

 呆れながら言うと、小さな溜め息をつきながら、

「その情熱を仕事に向けたら、確実に業績アップするのに。世界が平和になると思う」

 私に向かって、南無南無拝みながら言ってくれる。

「朝比奈さん、とりあえず頼まれた事はやるし、行き先も聞いてあげるから、昼飯くらいきちんと食べなよ」

 このタイミングで、優しい言葉かけるなんて卑怯な。これ以上、叱れないじゃない!

「分かったわよ、頼んだ件よろしくね」

 しっかりと念を押して、渋々部署から退散した。

 あ~あ、今日も会えず仕舞いか……。
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