FF~フォルテシモ~
***

 おじいちゃんとのやり取りの重い気持ちを吹っ切るように、颯爽と会議室に向かう。今日のお弁当は、焼き魚がメインの自信作。ちくわとにんじんの煮物に、えのきとピーマンの炒め物。ご飯も鰹節と醤油をまぶした、俵型のおにぎりにしてみた。

「美味しいです」

 今川部長のその言葉を聞くだけで、天にも昇る気持ちになれる。毎晩お弁当の仕込みをするのも、その言葉が聞けるようにと無性に頑張れた。

(良いお嫁さんになれるねって言われたらどうしよう! さすがにこの言葉は言ってくれないか)

 ひとりでツッコミながら、ポツンと会議室で待つ。

「どうしたんだろ、今日はやけに遅いな……」

 仕事で何か、トラブルでもあったんだろうか。

 不安になりかけたその時、ゆっくりと扉が開いて今川部長が入ってきた。

「こんにちは……」

 ほっとしながら挨拶を口にした。

「朝比奈さんこんにちは。申し訳ないけど、今日は一緒に弁当食べられないんです」

 傍まで来て自分のお弁当を机に置き、私のお弁当を手に取った。

「忙しいなら、仕方ないですよ」

 内心ガックリしながら言うと、なぜか頭を撫でる。普段そんな事をしないのに、一体どうしたんだろ?

 目を丸くして今川部長の顔を見つめると、なぜだか頬がちょっとだけ赤くなっていた。

「ちゃんと出先で、しっかり食べるから。君の弁当……」

「はい、お仕事頑張って下さいね!」

 微笑みながら応援したら、コクコク頷いたあと、逃げるように足音を立てて会議室を出て行った。何だかいつもと様子が違って、違和感ありまくり。仕事が忙しいせいなのかな。

 お弁当袋の結び目を解いて、ため息をつく。ひとりで食べるのは寂しいけど、しょうがないよね。

 さて今日はどんなお弁当なんだろうと無理やり気分を変えて、ぱかっと蓋を開けたら。

「……っ!」

 あまりに衝撃的な中身に、蓋を閉じた。

(ちょっと待って、コレはいったい?)

 もう一度蓋を開けて、まじまじと確認してみる。煎り卵とひき肉の二色ご飯の真ん中に、さくらでんぶでキレイなハートが描かれていた。その上に海苔を使って、文字が書かれていたのである。

『スキダ』

(――どうしよう、どうしよう。これ食べられないよ。写メ撮らなきゃって、デスクの上にスマホを置きっぱなしにしてきちゃった)

 頭が混乱して、どうしていいか分からない。冗談でこんな事をする人じゃないから、これってアレだよね。

 急いで廊下に出てみるが、当然今川部長の姿はない。また会議室に戻る私。午後の始業時間まで、あと10分――嬉し泣きしながらお弁当を食べた。ドキドキしすぎて、味なんて分からない。

 明日会ったら、まず何て言ったらいいのかな。
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