ハツコイ
「じゃあ生と…」
と言いかけた琉偉の言葉の続きを、私が言う。
「生2つと、あと…これとこれを。」
琉偉にときめいている人に、これ以上琉偉の声、聞かせたくないもん。
「了解。ちょっと待っててね。」
加奈子も、さっきまでの元気な明るい感じはなく、しおらしくなっている。
そんな加奈子が席を離れてすぐ、琉偉がフッと笑った。
「柚、今日飲むんだ?」
「えっ?まあ…飲む気分なの、今日は!」
お酒弱いくせに生なんて頼んでしまった。
でも、飲まなきゃどんどんどんどん嫉妬してしまいそうで。
なんでかな…不安で不安で仕方がないの。
「お待たせしました、生2つねー。」
しばらくして、お酒を運んで来たのも加奈子だった。
「あ、そういえばあたし、来週エリの結婚式行くけど、柚奈は行く?」
「あ、うん。」
エリの結婚式、加奈子も来るんだ…。
このお店に来なければ、琉偉と会わせなくて済む…なんて思っていたけれど。
エリの結婚式で、また会わせることになっちゃうんだ…。
そして加奈子は、チラッと琉偉を見て言った。
「柚奈の彼氏さん、かっこいいね…」
「そりゃどーも。」
かっこいいと言われ慣れてるのか、琉偉は顔色変えずにそう返事をした。
「あ、邪魔だねあたし。それじゃ、ごゆっくりー。」
加奈子が去って行き、ビールの泡を見つめながら思わずため息をついてしまった。
「…柚?とりあえず乾杯しませんか?」
「あっ、ごめんごめん。カンパーイ!!」
せっかくのデートなのに、こんな気分ダメだよね。
切り替えなきゃ。
…なんて思えば思うほど、さっきの加奈子の恋に落ちた瞬間の表情が、脳裏に鮮明に焼き付いていた。