ハツコイ
「あーもう、これじゃ仕事にならないな。」
とある休日の朝。
琉偉の部屋でくつろいでいた私の耳に、不機嫌な琉偉の声が届く。
「ど、どうしたの?」
「ん?ああ、ノートパソコンの調子が悪いんだよ。すぐフリーズすんの。これじゃ家に仕事持ち帰ったって、まともにできないよ。」
私もだけど、琉偉のマーケティング課も、かなりの仕事量。
残業だけでは追いつかず、プレゼンの資料などの仕事を持ち帰ることだってある。
「もう一台パソコンがあればね…」
フリーズしたままのパソコンを見つめながら私が呟くと、琉偉が思い出したように目を輝かせた。
「あるある!パソコン、実家にあるわ!!」
「え?」
「大学生の時にレポート書くために買ったんだけど、その時くらいしか使ってないからさ。コイツよりはよっぽど使えるかも。取りに帰ろっかな。」
琉偉、実家に帰るのかぁ。
一駅違いの、私たちの実家の距離。
「私も実家、帰ろっかな…」
そう呟くと…
「てか、両方の実家に行かない?三連休だし………婚約したんだし、その報告に。」
こ…婚約っ!!
改めて言われると、その響きにドキドキする。
「どーしたのかな?柚チャンっ!」
「どっ、どーもしてなっ……んっ…!!」
私が婚約って言葉にドキドキしてることなんて、琉偉にはお見通しで。
休日の朝から濃厚なキスをする私たちに、太陽は呆れたのか、雲に隠れてしまった。