ハツコイ
琉偉の部屋に上がらせてもらうと、壁にズラリと貼られた賞状の数々。




「すごい…これ全部、書道のだよね?」




「え?まあ。そんな大したもんじゃないって。」




「どこが!すごいよ本当に!私、琉偉の字すっごく好き。高校の時初めて一緒に日直した時、琉偉の字の綺麗さに見惚れちゃったもの。」




日誌にスラスラと美しい字を書く琉偉に、ドキドキしたんだもん。




「…好きなのは字、だけ?字だけに見惚れてたの?」




そう言って近づいてくる琉偉。



キスできそうなくらい、顔が近い。





「そ、そんなの言わなくたってわかってるでしょ…」




「わかりませーん。」




しまった。



琉偉の意地悪スイッチをつけてしまったみたい。




「琉偉の全部が好きに決まってるでしょ。顔も、声も、仕草も…私を大切に思ってくれるところも、仕事してるところも…全部。」




そう言うと、琉偉が私から離れて、手の平で口を覆った。




「…琉偉?」




「…予想外のこと言うの、反則だろ………」




て、照れてる!



………かわいい…。




そんな琉偉に、紙とペンを渡した。



「ね、だから琉偉。琉偉の字が見たいなー!」




「…あのねえ。人がせっかく感動してんのに。」




「ほらほら、早くー!」



社会人になって、パソコンやスマホばかりでほとんど時を書かなくなってしまったから、琉偉の字を見るのは久しぶり。



すると…




「はい、書いたよ。」




そう言って見せてくれたのは、達筆に書かれた“安座間柚奈”という字だった。



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