ハツコイ
「…どういうことですか。」
『どういうことか聞きたいのはこっちだ。何で倉科泣いてるんだ?』
泣いてる…?
「すみません、安原さん。柚に代わって下さ…」
『…断る。』
安原さんの声が、明らかに怒っている。
『何で倉科泣かせてんだよ。大切にしてやれって、俺言ったよな?倉科もお前も幸せそうだから、俺は諦めようと思った。だけど…』
反射的に思った。
…この続きを聞きたくないって。
『…お前が幸せにできないなら、倉科は俺がもらう。』
安原さんの声が、胸に突き刺さる。
幸せに…できてない?
俺、柚を苦しめてる?
“一度壊れた恋愛なんて、どうせまたすぐに壊れるわ”
そう高らかに言い放った芽衣の言葉を思い出す。
『……頭冷やせよ。』
そう言われ、電話は切れてしまった。
その場に、崩れるようにしゃがみ込んだ。
「…何なんだよ………」
会いたい。
柚に会いたい。
この愛は永遠なんだって、笑い合いたい。
だけど…
何だろう、この感覚。
幸せが、手からどんどんこぼれ落ちていくような、この感覚。
柚を失うことの怖さは、知っている。
あの恐怖をまた、繰り返すのか…?
なあ、柚?
俺はさ、柚がいないと…
なんにもできない、情けない男なんだよ。